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この度は私、藤井政美のProduce Collection のCDシリーズ2枚目となります
因幡由紀 ” You can hear a lark somewhere…. ” をご購入いただきましてありがとうございます。
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歌い手・因幡由紀についてはこの2つ前の投稿で紹介しておりますので、
よろしければご覧くださいませ。(ほとんど紹介になっておりませんけれど。)
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ここでは楽曲について簡単な事柄を書いて置きますので
鑑賞のお供にどうぞ。
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今回の収録は事前にそれなりの打ち合わせはしましたが、
因幡由紀、という人間の魅力を最大限に引き出すため(というか、
今回のイメージである歌い手の部屋でそのまま自然に演奏しているのを
横で一緒に聴いているような仕上がり、を意識していることも踏まえて)
選曲に縛りはほとんどなく、
その場で歌いたくなった曲をどんどん歌っていって収録する、
という方式にしました。
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事前に決めていたのは1曲のみ。
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で、ピアニスト 鳥岡香里さんも一応ブッキングしていいて、
基本は弾き語りだけれど、飽きたり由紀さんがうまく弾けないと思うときには
ピアノを弾いてもらう、ということで収録スタート。
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数曲録っていきましたが、この曲が聴こえたときに
私には「お!これがアルバムでは冒頭ね!」と
勝手ながら決まりでした。
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そんな曲からこのアルバムはスタートしましょう!
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1. People will say we’re in love (Richard Rogers / Oscar Hammerstein )
作詞がオスカー・ハーマンスタイン3世、作曲はリチャード・ロジャース。
一般に歌の好事家からはロジャース/ハーマンスタインもの、と呼ばれる
黄金の組み合わせ。
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かつてのミュージカルでは筋を書いて歌詞を書くひとと、
それに沿ってメロディを作るひととがチームとなって作品を産みだし、
ヒットを重ねることによって黄金の組み合わせとなっていくことが多々ありました。
この2人で最も有名なのはサウンド・オブ・ミュージックでしょう。
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この曲はあまり取り上げられない作品ですが、サックス奏者として
キャノンボール・アダレイの演奏なんかを紹介しておきます。
とてもhappy な作品です。
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2. I concentrate on you (Cole Porter )
次の曲はコール・ポーターの名曲です。
ロジャース/ハーマンスタインに対してコール・ポーターは
ひとりで全てを作るタイプ。
そして、彼は非常に奔放な人間ですが、歌詞も多様な意味に捉えられるような
ちょっとひねったものが多く、これもどういうことかね??といいたくなるような
タイトルです。
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名唱あまたあるなかで、個人的にはクリス・コナーのヴィレッジ・ゲイトのライブが
短いながらも小粋でさらっとした美しい仕上がりと愛聴しております。(わたしが、です。
由紀さんはまた別なのがいい、と思っていることでしょう)
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そして、ここでの因幡由紀の声の伸びは引き込まれていきます。
お楽しみいただけますように。
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3. All too soon (Duke Ellington / Carl Sigman)
エリントン名曲は多いですが、その分、ついつい後回しになるような
曲があります。
コロンビア・レコードにUnknown session という未発表セッションを
後年再発したレコードがありますが、これを愛聴していたので、
これも良い選曲でした。
(貼り付けたYoutube は全曲レコード順で流れるようなので、
3曲目がAll too soon です。ご注意を。でも最初から名曲の嵐!)
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こんなことは書いちゃいけないんですが、これは没の可能性があったトラックです。
歌詞を一箇所、ごにょっと歌ってしまったところがあって、
「ありゃ!!こりゃ何言っているかわからんって思われるわ~~」と
由紀さんは話しておりましたが、逆に気付いてほしいな、と思って
入れた、という理由がございます。
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意味をわかって(当たり前ですが)ストーリーを話して歌っている歌なので、
皆さんも是非、聞き取ってみていただけたらな、と。
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もしも、こんなのいけんじゃろ!ちゃんと歌わんと!と思われた方、
是非、生でリクエストしてください。
お詫びに由紀さんがきちんと、歌います!!
そういうやりとりを含めて、後にまでつながる内容を目指しております。
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4. His eyes on a sparrow
この録音の数日前のちょっとした演奏で彼女が歌って、
私もよくわからないなかで伴奏を吹いたのがきっかけで
この日の録音になりました。
非常に感動的な曲になっております。
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もちろん、もともと黒人霊歌として知られていて、
聖書から取られた言葉が歌詞となっています。
神はちいさな雀一羽にもそのまなざしを注いでいる。
だからわたしのことも、見てくださっているのだ、という意味です。
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そして、いまこれを書きながら気付くという大ミスが・・・
His eyes on <the> sparrow でしたね・・・・
由紀さんもthe って歌っているのに。ちゃんと聴いていない自分を反省しております。
思い込みはコワイ。
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そして、前述の通り、この曲に関してはわたしは完全にその瞬間に音を手繰り寄せて
演奏しております。
そんなこと、あんまりやっちゃいけないんですが、たまには自分の作品だからいいか!
と。
ちょっと挑んでいるトラックでございます。
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5. Time after time (Sammy Cahn / Jule Styne)
ギタリスト・スティーブ・カーンの父、サミー・カーンの有名な作品。
スティーブ・カーンは父の影響を避けるために、姓の綴りを変えたという
逸話があります。
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ここではVerse から歌っています。このトラックはこのVerse がとても印象的。
エンディングのso lucky ! というつぶやきも、リラックスした由紀さんらしい仕上がり。
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この辺りでこのCDの音についてちょっと解説を。
ホールでのレコーディングなのでピアノ、サックスは響き豊かに鳴っています。
それに対して、声はかなりドライ、すぐ近くで歌っているようなバランスです。
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このバランスは一聴するとアンバランスで、サックスもオフ・センターなので、
もっと中央に定位させた方がいい、という意見があります。
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同様に、声にもっとリヴァーブ(エコーですね)をつけたらいい、という意見も。
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今回のアルバムではそのご意見はすべて却下しております。
サックスはわたしが吹いておりますが音楽の中心ではございません。
むしろ、由紀さんが歌っているところに勝手に入ってきた、という雰囲気で。
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ちょっと広い部屋で由紀さんや鳥岡さんが気持ちよく演奏しているのを
隣で皆さんがきいているようなそんなアルバムなのです。
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そして、1940~50年代のヴォーカルの録音はこのような、
声の近い録音が普通でした。
わたしはこれこそ、歌手の魅力を最大限に伝えるものと
思っています。
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前提として、「魅力がある」ということが最大の意味ですけれど。
これがこのアルバムに込めた気持ちです。
普通のアルバムはどこにでもありますが、こういう音のアルバムは少ないのです。
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この音のバランスやイメージを確たるものとして実現してくれた
録音エンジニア 笹田大三郎氏に心から御礼を。
素晴らしい録音でした。
彼との橋渡しをしてくれた奥田治義氏にも同様のお礼を。
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6. Two Kites (Antonio Carlos Jobim)
この曲の解説については友人のトロンボーン奏者・上原茂史氏が
facebook で書いていらした記事を了解をいただいて加筆転載します。
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20世紀を代表するコンポーザーの一人であるジョビンであるけれど
1970年代以降の代表曲といえばあんまり思い当たらない。
(「3月の水」くらいか?)
「イパネマの娘」等々のヒットで世界的な名声を得たジョビンは
それと引き換えに本国ブラジルからは「アメリカに魂を売った」売国奴的な
批判にさらされたり、最初の奥さんとの不和やら、
幼少時のトラウマ(愛犬を誤射して殺してしまった)やらで
かなり追い詰められ長きにわたり精神分析治療を続けてたんですね。
そんなこんなで環境問題にいち早く取り組んだり、
次の奥さんとの出会いなんかもあっての80年初頭リリースの
「テラ ブラジリス」収録の「two kites」という曲なんですが
ジョビンのもう一丁揉んでやるか感というか
心の充足感が表れており後期?の名曲ではないか、と。
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この曲は彼が鳴り物入りで初来日したときのワールド・ツアーでも
やっていました。
私はちょうど、浪人中だったか大学に入ったばかりだったかで、
これからBossaNova を勉強しようとおもったときで
観にいけなかったのですが、放送を録画してそれこそ、
繰り返し繰り返しみて研究したものです。
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この曲だけは是非、録音して残したい、と私が願って実現しました。
出来についても由紀さんはNG を出していたのですが、
わたしは無理やり収録を決めた、という経緯もあります。
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ジャケットデザインの納島正弘氏はこのトラックを最も気に入って、
この曲のイメージでジャケット絵を作成しておりますので、
あわせてご覧くださいませ。
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ということはそれ以外の選曲はすべて由紀さんがふらふらと
譜面の束をひっくり返しながらひょいひょいと歌っていったなかで
わたしが再構成してアルバムにしております。
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実際に録った量はもっと多いのですが、
収録時間はおおよそレコード片面分よりも少し多い程度。
でも、これくらいが本当にちょうど良い、と感じていて
この分量にしております。
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なんでもかんでも詰め込むのが良い訳ではない、という
のも大きなこのシリーズのポイントです。
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厚化粧なし、小編成の自然な演奏、適度な時間の収録、
そんな辺りでしょうか。
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7. Everytime we say goodbye (Cole Porter)
最後もコール・ポーターの名曲。
「さよならを云うたびに、わたしは少しつらくなる」という美しい歌詞。
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多くのさよならがこのアルバムを作っている最中にも
ありました。
さよならだけが人生なのですけれど、
また会えると思えばそれもまた味わいです。
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June Christy のStan Kenton との名盤、Duet 冒頭のこの曲は
是非とも聴いてほしい名演です。
って書いておいて紹介するのは、レディ・ガガ。でも素晴らしいですね、こちらも。
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最後に、もうひとつ、このアルバムを聴いて、
きっとお気づきでは無いとは思いますが、
このアルバムにはあまり間奏のソロは入っておりません。
(もちろん、数曲はありますよ!)
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本番のライブではソロもふんだんにありますし、スキャットなども
入れていきますけれど、それはライブ感満載の状態で
楽しむもので、アルバムで「歌」を聴かせることを
主眼としているこの作品ではそのままの歌だけを収録しました。
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普通は
前奏 ~ 歌 ~ 間奏 ~ 歌 ~ 後奏
ですけれど、これを
前奏 ~ 歌 ~ 後奏
こんな感じにしています。
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これがわたしの思う、ヴォーカル・アルバムの美しい仕上がりで、
もちろん、ライブ感やジャズ感一杯のアルバムもイイのですが、
それはちまたに沢山あるので、そんなのとは違う仕上がりにしております。
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いかにも名手をつれてきたので
せっかくだからソロ入れてくださいよ~、的なやりとりは
良い結果をもたらさないことも多々あります。
何より、「せっかくだから」は音楽の必然とは無関係なので・・・
って名手は参加していませんが!
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複雑微妙な味が作れないから、ともいえますけれど、
ざるそばのようなシンプルさを是非お楽しみくだれば幸いです。
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そして、このアルバムはいつの日か、続編のバラード・アルバムが
リリースされます。
是非いつの日か出されるそちらも!
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ご感想、お問い合わせはこちらまで
fjm@live.jp 藤井政美
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